日本会議北海道本部による公開質問状

2016年5月28日付で、日本会議北海道本部は北海道博物館および北海道知事宛てに公開質問状を提出した。この公開質問状に対する北海道知事名の回答を受けて、以下のサイトを公開している。

えっ!明治以前の北海道って日本じゃなかったの?

とくに注目する必要があるのは、回答に対して「対策委員会の見解」と題して表明された歴史修正主義的ないびつな北海道史である。

質問1

人類が日本列島に生活したのは4万年前、日本人がDNAを受け継いでいる縄文人は、1万3千年前からとされています(国立東京博物館)。
このような中で「日本の先住民族」とはどのような人たちを指すのか。「先住民族」の定義と共にアイヌがそれに相当する理由を、(自然・歴史・文化に関する総合的研究博物館)を謳う同館の使命という観点から説明されたい。

対策委員会の見解1

そもそもこの解説は正しいのでしょうか? アイヌ人は日本の先住民族なのでしょうか?
回答書は、国会決議、官房長官談話等を根拠にしました。しかし、この問題は人類学や考古学等の研究成果として結論付けられるべきものです。国会議員が判断できるはずもなく、その意味で、それを根拠とする回答が的外れであることは誰の目にも明らかでしょう。
回答書は、その内容によって図らずもアイヌ人が日本の先住民族ではないことを吐露してしまった訳ですが、少なくとも、アイヌの先住民族性に学術論争や異説がある以上、両論併記して展示することが、公立博物館運営の基本でなければなりません。
なお、三貫地遺跡(福島県)の人骨DNA分析の結果、アイヌ人は我々日本人と同様に縄文人の子孫であることが明らかになっております。

質問2

「明治政府が北海道を日本の領土に入れ」とあるが、貴職の考える領土とは何か。また、これ以前、北海道は何処に属していたのか。豊臣秀吉や徳川家康が蠣崎氏に蝦夷地統治を許容し、江戸幕府による北方警備や直轄統治、松前藩の蝦夷地における権限拡充という歴史的事実に照らして回答されたい。

対策委員会の見解2

 これもまた、摩訶不思議な解説です。国際法が未成熟な時代、領海・領土概念が希薄であった実情を否定するものではありません。しかしながら、私たちの良識に照らし、真っ当な歴史認識として、この解説に同意する人はほとんどいないでしょう。同館には多数の学芸員が在籍しますが、解説担当者は、どうやら「明治以前の北海道は日本ではなかった」と言いたいようです。ならば、どこに帰属し誰の土地であったのか…。アイヌ展示コーナーという条件下でこの文意をひも解けば、”北海道はアイヌのものであった”。それが論理的帰結であり、また展示側の真意ということでありましょう。
回答書は、当時の北海道が日本の諸藩と異なる位置づけだった経緯やアイヌ社会の一定の自立性、明治以降近代国家に組み込まれた等の理由を挙げておりますが、「日本の領土に入れ」との国語的意味や語感に照らし、いずれも後知恵による詭弁を弄する類と言わなければなりません。
北海道自身が編んだ「北海道史」には「日本書紀に蝦夷の記述があること」「律令時代には管轄も明示されていたこと」が記されていることも、あえて付言しておきたいと思います。

質問3

 和人との混住は、アイヌにとって〝打撃〟であり〝苦しみ〟であったことが強調された展示になっている。和人がもたらした文明の恩恵は、アイヌも同じ日本人として等しく享受してきたはずであるが、負の側面のみを強調する意図は何か。
また、アイヌ文化の一例であるイオマンテ(熊の生贄)、ワナによる動物捕獲等の禁止については、自然保護や動物との共生、また幼女(女性)に対する入墨禁止については女性の人権、健康という各観点を踏まえて回答されたい。

対策委員会の見解3

アイヌ展示コーナーとはいえ、この解説はあまりに一方的というほかありません。同じ解説は館内展示「1-4 蝦夷地から北海道へ」「2-4歩みをたどる」でも繰り返され、ガイドブック(2015年初版)では、同じ内容または要旨を同じくする記述が、16頁、17頁、18頁、23頁で重ねて展開されます。正に、インディアンを滅ぼしたアメリカ西部開拓史を彷彿させますが、さて、この北海道で本当にそのような歴史事実があったのでしょうか?

アイヌとインディアンの境遇を同一視できるわけもなく、小さな小競り合いを除き、日本(ないし日本人)が国家(ないし総体意思)としてアイヌ人を虐殺し、搾取したなどの歴史事実はまったく存在しません。
公開質問では、アイヌを被害者とするなど負の側面のみを強調する意図と共に、近代化への過程における文化的接触や衝突~熊の生贄、幼女の入墨等の禁止~等の評価を問いました。回答は「アイヌ民族の…伝統文化の様々な要素が否定され」とするのみです。近代化がもたらした環境衛生の向上、寿命の伸長、識字率向上等の恩恵には一切触れません。

ならば、私たちは再度問い直さねばなりません。仮に、アイヌのそれら原始的習俗が彼らの伝統文化だとして、近代国家に生きる私たちがなおそれらを許容し尊重すべきなのかと。そして、現代日本人は、アイヌを一方的に加害、抑圧した先人の子孫なのかと…。  答えはあまりにも明白でありましょう。

この「見解」について、検証していくことにする。